【いわゆる花押を書くことは,民法968条1項の押印の要件を満たさないか】

前回の更新から1ヶ月経ってしまった…。継続って難しいな。
今回の判例はLEXDBの新着判例コーナーで見つけました。Twitterで存在自体は知っていたけど,ようやく読めた…。
ちなみに,花押とは,署名の代わりに使用される記号・符号をいうらしいです(byウィキ)。押し花的なものをイメージしてしまっていたので反省。


【いわゆる花押を書くことは,民法968条1項の押印の要件を満たさないか】【最判H28.6.3】
 花押を書くことは,印章による押印とは異なるから,民法968条1項の押印の要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。
 そして,民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として、遺言の全文,日付及び氏名の自書のほかに,押印をも要するとした趣旨は,遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民集43巻2号45頁参照),我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い
 以上によれば,花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。 

【賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力はどの時点で生じるか】

RETIOで見つけた判例です。
http://www.retio.or.jp/info/pdf/98/98-140.pdf
ちなみに,賃料増減額に関する訴訟は調停前置であり,前置を怠って訴訟提起をした場合,裁判所は不適当な場合を除いて,調停に付さなければならないらしいです(民事調停法24条の2第1項・第2項)。民事調停法なんて久しぶりに開いた…。勉強不足ですね。

裁判所|民事調停をご存じですか



最判H26.9.25】【時点説】【賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力はどの時点で生じるか】
 借地借家法32条1項所定の賃料増減請求権は形成権であり,その要件を満たす権利の行使がされると当然に効果が生ずるが,その効果は,将来に向かって,増減請求の範囲内かつ客観的に相当な額について生ずるものである(最高裁昭和30年(オ)第460号同32年9月3日第三小法廷判決・民集11巻9号1467頁等参照)。
 また,この効果は,賃料増減請求があって初めて生ずるものであるから,賃料増減請求により増減された賃料額の確認を求める訴訟(以下「賃料増減額確認請求訴訟」という。)の係属中に賃料増減を相当とする事由が生じたとしても,新たな賃料増減請求がされない限り,上記事由に基づく賃料の増減が生ずることはない最高裁昭和43年(オ)第1270号同44年4月15日第三小法廷判決・裁判集民事95号97頁等参照)。さらに,賃料増減額確認請求訴訟においては,その前提である賃料増減請求の当否及び相当賃料額について審理判断がされることとなり,これらを審理判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(直近の賃料の変動が賃料増減請求による場合にはそれによる賃料)を基にして,その合意等がされた日から当該賃料増減額確認請求訴訟に係る賃料増減請求の日までの間の経済事情の変動等を総合的に考慮すべきものである(最高裁平成18年(受)第192号同20年2月29日第二小法廷判決・裁判集民事227号383頁参照)。
 したがって,賃料増減額確認請求訴訟においては,その前提である賃料増減請求の効果が生ずる時点より後の事情は,新たな賃料増減請求がされるといった特段の事情のない限り,直接的には結論に影響する余地はないものといえる。
 また,賃貸借契約は継続的な法律関係であり,賃料増減請求により増減された時点の賃料が法的に確定されれば,その後新たな賃料増減請求がされるなどの特段の事情がない限り,当該賃料の支払につき任意の履行が期待されるのが通常であるといえるから,上記の確定により,当事者間における賃料に係る紛争の直接かつ抜本的解決が図られるものといえる。そうすると,賃料増減額確認請求訴訟の請求の趣旨において,通常,特定の時点からの賃料額の確認を求めるものとされているのは,その前提である賃料増減請求の効果が生じたとする時点を特定する趣旨に止まると解され,終期が示されていないにもかかわらず,特定の期間の賃料額の確認を求める趣旨と解すべき必然性は認め難い。
 以上の事情に照らせば,賃料増減額確認請求訴訟の確定判決の既判力は,原告が特定の期間の賃料額について確認を求めていると認められる特段の事情のない限り,前提である賃料増減請求の効果が生じた時点の賃料額に係る判断について生ずると解するのが相当である。


賃料増減額確認請求訴訟の訴訟物については,期間説と時点説の対立があり,本判決は,時点説を採用した初めての判断らしいです。

【勤務時間終了後に事業所外において開催された歓迎会の二次会に,業務執行性が認められるか】

新・判例解説Watch掲載の裁判例です。
http://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-031121343_tkc.pdf

新入社員歓迎会の2次会で男性社員からセクハラを受けたとして,福岡トヨペット派遣社員だった20代の女性が,同社と男性社員に計約120万円の損害賠償を求めた訴訟です。男性社員だけでなく,会社の使用者責任も肯定されました。業務該当性の論点では,最判H16.11.12の密接関連性の基準が採用されています。男性社員が暴行罪で罰金刑が確定していることからしても,事実行為的不法行為・暴行型の同基準が採用されたのは納得ですね。


【被用者の加害行為は、「事業の執行について」といえるか】【最判H16.11.12】
 そもそも、使用者責任の趣旨は報償責任の原理にある。
 そのため、事実行為的不法行為の場合においては、
●使用者の行う事業と被用者の不法行為とが密接に関連していることを指す
 と解する。
【勤務時間終了後に事業所外において開催された歓迎会の二次会に,業務執行性が認められるか】【福岡トヨペット・セクハラ事件/福岡地判H27.12.22】
 被告Y1は被告会社の従業員であるところ,本件行為は,勤務時間終了後に職場外の場所で行われたものではあるものの,原告ほか1名の新入社員歓迎会の二次会であったというのであるから,被告会社の業務に近接してその延長において行われたものと評価でき,被告会社の職務と密接な関連性があり,その事業の執行につき行われたと評価すべきである。
 よって,被告会社は,原告に対し,使用者責任に基づき損害賠償責任を負う(民法715条)。

【一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権を各区分所有者が行使することができるか】

判例秘書の判決速報で見つけた判例(最判H27.9.18)です。建物区分所有法についてはあまり馴染みがなかったので,この機会に勉強してみようと思いました。


【共用部分について生ずる不当利得返還請求権の帰属について】→当事者も原判決も前提としている部分(by判タ)
 不当利得返還請求権は可分債権であるから,各区分所有者にその共有持分割合に従って分割して帰属する。

【行使について】【最判H27.9.18】
 一部の区分所有者が共用部分を第三者に賃貸して得た賃料のうち各区分所有者の持分割合に相当する部分につき生ずる不当利得返還請求権は各区分所有者に帰属するから,各区分所有者は,原則として,上記請求権を行使することができるものと解するのが相当である。
 他方において,建物の区分所有等に関する法律は,区分所有者が,全員で,建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(区分所有者の団体)を構成する旨を規定し(3条前段),この団体の意思決定機関としての集会の招集手続並びに決議の方法及び効力等や,この団体の自治的規範としての規約の設定の手続及び効力等を規定している(第1章第5節)。また,同法18条1項本文及び2項は,区分所有者に建物の区分所有という共同の目的があり,この共同目的達成の手段として共用部分が区分所有者全員の共有に属するものとされているという特殊性に鑑みて,共用部分の管理に関する事項は集会の決議で決するか,又は規約で定めをする旨を規定し,共用部分の管理を団体的規制に服させている。そして,共用部分を第三者に賃貸することは共用部分の管理に関する事項に当たるところ,上記請求権は,共用部分の第三者に対する賃貸による収益を得ることができなかったという区分所有者の損失を回復するためのものであるから,共用部分の管理と密接に関連するものであるといえる。そうすると,区分所有者の団体は,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を集会で決議し,又は規約で定めることができるものと解される。そして,上記の集会の決議又は規約の定めがある場合には,各区分所有者は,上記請求権を行使することができないものと解するのが相当である。

【マンションの管理規約の解釈について】【最判H27.9.18】
 そして,共用部分の管理を団体的規制に服させている上記のような建物の区分所有等に関する法律の趣旨に照らすと,区分所有者の団体の執行機関である管理者が共用部分の管理を行い,共用部分を使用させることができる旨の集会の決議又は規約の定めがある場合には,上記の集会の決議又は規約の定めは,区分所有者の団体のみが上記請求権を行使することができる旨を含むものと解される。


最後の契約解釈についての部分は,法の趣旨と規約の存在だけで貫いているので,相当緩やかな解釈である印象を受けました。だけど,僕も受験生の頃はこんくらい緩く契約解釈について論じていたような気もする…(笑)

【受信機設置者は放送受信契約締結義務を負うか】

判例解説Watchで見た裁判例です
http://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-031111342_tkc.pdf

学説(訓示規定説)と裁判例がかなり対立している印象を抱きました。
感情論としても,ほとんどNHKを視ない人が,年間に24,770円も支払うのは理不尽な気がします。
NHK受信料の窓口-放送受信料 新規契約のお手続き

また,BS放送やWOWOWのように,スクランブルをかけて,受信契約をしないとNHKを受信できないようにすることが技術上可能になっているので,放送法64条1項も改正の余地があるのではないかと思います。


以下,裁判例です。

【法的義務肯定説】【東京地判H27.10.29】 放送法は,64条1項本文において,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と定め,同条2項には,原告が放送受信契約を締結した受信機設置者から受信料を徴収することを予定した規定を置いている。
 そして,原告(NHK)は,あまねく日本全国において放送できるように豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務等を行うことを目的として設立されたものであり,その事業に高い公共性が認められ,一方で,国や広告主等の影響をできるだけ避けて自律的に番組編集を行うことができるようにする必要があることから,放送法は,原告(NHK)に対して営利目的の業務及び広告放送を禁止し,その代わりに財政的基礎を確保する方法として放送受信契約及び受信料の制度を採用して,広く国民に公平に負担を求めることにしたものと解することができる。
 このような受信料の性質に,放送法の規定の文言,受信料が継続的に支払われるべき金員であることからすると,放送法64条1項の規定は,受信機設置者に放送受信契約を締結する義務を強制的に課したものと解するのが相当である。この点は,放送法制定時における国会での政府委員答弁においても,①今後,民間の放送事業者が放送事業に参入して来ることになるが,原告は,利益の有無にかかわらず,あまねく日本全国において受信できるようにしなければならない使命を負っているのであるから,受信料を強制的に徴収することが必要になる旨,②受信料の価格及びその使い方に愼重を必要とすることになるため,受信料を法律でもって定め,原告の毎事業年度の収支予算等は国会の承認事項とし,さらに会計検査院が事後的に審査することにした旨が説明されていることからもうかがわれるところであり,このような立法当時における放送受信契約の締結義務の規定の趣旨は,前記で述べた現行の放送法においても変わるところはないというべきである。
 したがって,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定する放送法64条1項は,受信機設置者に対して,原告(NHK)と放送受信契約を締結すべき私法上の義務を課したものと解するのが相当である。

【売買契約の合意解除に伴う所有権の復帰は地方税法73条の2第1項にいう「不動産の取得」に該当するか】

解除した売主に非がない場合の救済措置があってもいいと思いました。
不動産取得税って結構バカにならない金額だと思うので…。
東京都主税局<都税Q&A><都税:不動産取得税>

この機会に地方税法について勉強してみよう。
【追記】
本件は、合意解除か錯誤無効かが争われた事案だったんですね…。
錯誤無効だったら「不動産の取得」には該当しないので、そこの判断で、ある程度売主保護が図られているのか。なるほど。


【売買契約の合意解除に伴う所有権の復帰は地方税法73条の2第1項にいう「不動産の取得」に該当するか】【東京地判H26.8.26】
 不動産の売買契約の合意解除は、遡及的に売買契約を無効にする効果を有しているものの、売買契約によって当該不動産の所有権が買主に移転した事実自体を否定することはできない。
 そして、不動産取得税が不動産の所有権の移転の事実自体に着目して課税されるものであることに照らせば、売買契約の合意解除に伴う所有権の復帰は、課税上、売買契約の相手方(買主)から元の所有者(売主)への新たな所有権の移転があったものとして捉えるべきものであり、地方税法73条の2第1項にいう「不動産の取得」に該当するものと解するのが相当である。

【ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えの適否】

昔の司法試験で出たような論点ですね…。
この論点で最高裁判決が出たのは、たぶん初めてなんじゃないかな。
5月の新判例WATCHが楽しみ。

最判H28.3.4】【ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えの適否】
 会社法は,会社の組織に関する訴えについての諸規定を置き(同法828条以下),瑕疵のある株主総会等の決議についても,その決議の日から3箇月以内に限って訴えをもって取消しを請求できる旨規定して法律関係の早期安定を図り(同法831条),併せて,当該訴えにおける被告,認容判決の効力が及ぶ者の範囲,判決の効力等も規定している(同法834条から839条まで)。このような規定は,株主総会等の決議によって,新たな法律関係が生ずることを前提とするものである。
 しかるところ,一般に,ある議案を否決する株主総会等の決議によって新たな法律関係が生ずることはないし,当該決議を取り消すことによって新たな法律関係が生ずるものでもないから,ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えは不適法であると解するのが相当である。このことは,当該議案が役員を解任する旨のものであった場合でも異なるものではない。